症状・疾患Diseases

肝機能の異常

検診で肝機能の異常を指摘された場合は肝臓専門医に一度ご相談ください。

特に自覚症状がなくても、検診で肝機能の異常が指摘された場合は、注意が必要です。肝臓の数値が上がる原因には、感染症や飲酒・薬剤などの影響で一過性にあがる他、肝臓に持続する病気が存在し、知らないうちに徐々に進行している可能性もあります。原因は多岐にわたりますが、症状がではじめる頃には手遅れになっていることもあります。異常を指摘された場合には、身体に特に変わったことはないからと安易な判断で放置せず、肝臓専門医に一度ご相談ください。

肝機能異常を指摘される病気

  • ウイルス性肝炎
  • NAFLD(脂肪肝、NASH)
  • アルコール性肝障害
  • 自己免疫性肝疾患(AIH、PBC、PSC)
  • 薬剤性肝障害(処方中の薬剤やサプリなど)
  • 体質性黄疸(Gilbert症候群など)
  • 肝硬変
  • 肝腫瘍
  • 胆石症
  • 感染症
  • 甲状腺機能異常
  • 心不全
  • ショック、循環不全
  • 低栄養

ウイルス性肝炎

ウイルス感染が原因で肝臓に炎症がおこり、肝機能の異常を起こす病気です。急性の感染では発熱や黄疸、全身の倦怠感等の症状をきたすことがありますが、慢性の感染(持続感染)では無症状のことが多く、検診や病院での肝機能検査で偶然に発見されたり、肝硬変まで病状がすすんでから受診されることが多いです。

肝炎を引き起こすウイルスには、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどがあり、感染経路はウイルスの種類によって経口感染、血液感染、性行為感染など様々です。日本人で多いのはC型肝炎ウイルス・B型肝炎ウイルスによる慢性肝炎で、ウイルス肝炎が進行すると肝硬変や肝臓がんといった深刻な病態になる場合があります。近年、C型肝炎ウイルス・B型肝炎ウイルスそれぞれに対する有効な治療薬が開発されており、早めの検査と適切な治療の開始で、その後の経過を良くできます。

非アルコール性脂肪性肝疾患

NAFLD: nonalcoholic fatty liver disease

肝臓の機能は、肝臓全体の約80%以上を占める肝細胞が主につかさどっています。栄養の偏りや過度の飲酒などがあると、肝細胞での栄養素の代謝がうまく回らず、細胞内に過剰な脂肪成分が蓄積した状態(脂肪肝)になります。近年、栄養過多や運動不足などの生活習慣から肥満を背景に発症する脂肪肝が増えてきており、お酒をのまない人でも発症することから非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれています。NAFLDの多くは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧を伴っていて、メタボリックシンドロームの肝臓病と考えられています。NAFLDはさらに、肝臓に脂肪が溜まっただけの単純性脂肪肝(NAFL: nonalcoholic fatty liver)と肝臓の炎症や線維化を伴う非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: nonalcoholic steatohepatitis)に分けられ、NASHは適切に治療を行わないと数年~10数年程度の経過で肝硬変に進展し、さらに肝臓に癌が発生する原因にもなります。私が研修を始めた20年以上前の時代には、日本人にNASHの患者さんなどはほとんどなく、海の向こうの話だと考えられていましたが、最近の検診データをみると日本人成人男性の30-40%、成人女性の10-20%程度にNAFLDがみられ、さらにNAFLDの患者さんの10-20%がNASHに進展していると報告されています。日本を含むアジア人は欧米人と比べると肥満への耐性が弱く、少し体重が増えたり、内臓脂肪の量(ウエスト周囲長)が増加するだけで、糖尿病などの生活習慣病を発症しやすい体質であり、生活習慣の変化を背景に日本でもNAFLDの患者さんが着実に増えています。NASHを含むNAFLDの患者様はほぼ無症状ですが、NASHが進行して肝硬変に至ると肝不全に伴う症状が出現し、この段階になると肝臓をもとにもどすのは難しい状況となります。健康診断などで脂肪肝や肝機能異常などのNAFLDを疑う所見があれば、肝臓専門医を受診して、NAFLとNASHの鑑別診断をうけること、NASHと診断された患者様は肝臓の病態(線維化)が進行しないように適切な治療を継続することが非常に重要です。

非アルコール性脂肪性肝疾患について

アルコール性肝障害

長年にわたり過剰な飲酒を常習的に続けることによって起こる肝臓の障害で、肝細胞に中性脂肪が蓄積した「アルコール性脂肪肝」、炎症細胞が肝臓に浸潤する「アルコール性肝炎」、肝細胞が破壊され線維組織が蓄積される「アルコール性肝線維症」など様々な病態が同時進行性に現れ、肝硬変に進展したり肝臓にがんができるなど、命に関わってきます。また急激に肝臓が炎症で腫れる「重症型アルコール性肝炎」は致死率の高い病態で、禁酒を行っても症状が持続し、多くは1ヶ月以内に亡くなると言われています。肝障害の原因としては、長年の飲酒習慣による栄養バランスの偏りや腸管の中の細菌で産生された毒素(エンドトキシン)が肝臓に運ばれやすくなること、アルコールが肝細胞で分解されるときに発生する有害物質(アセトアルデヒド)が肝細胞を障害することによります。アルコールやアルデヒドを肝臓で代謝する能力は個人差が大きく、発症する飲酒量の目安としては、通常は5年以上の長期にわたって、1日平均で純エタノール60g以上(日本酒3合程度)とされていますが、女性やALDH2活性欠損者(お酒を飲むと顔が赤くなる人)、肥満者では、1日40g程度の飲酒(日本酒2合程度)でもアルコール性肝障害を起こしうるため、要注意です。
治療の基本は禁酒と食事療法になります。飲酒後に身体の中からアルコールが完全に代謝されるのには約24時間かかるとされておりますので、飲酒を控えて肝臓を休める休肝日を週に数日は設けること、1日の飲酒の適正量を守ること、脂肪分を少なめでビタミンなど不足しないバランスの取れた食事内容にすることが重要です。また、規則正しい生活、十分な運動・睡眠など生活習慣を整えること、飲酒以外のストレス解消法を見つけることも予防には有効です。アルコール依存などの精神的な問題で禁酒の継続が難しい場合には、断酒を促すためにカウンセリングや、飲酒欲求を低下させる飲酒量低減薬、飲酒後の不快反応を起こす嫌酒薬などの専門的な薬物療法もあります。肝機能の状態に応じて、肝臓を保護する肝庇護剤や高脂血症に対する薬物療法などの適応も慎重に検討し、肝硬変へ進展させないように管理することが重要です。

自己免疫性肝炎

AIH:Autoimmune hepatitis

自己免疫性肝炎は免疫システムの異常によって引き起こされる肝臓の障害で、詳しい原因は未だ解明されていません。多くの場合には慢性に経過する肝細胞の障害で、慢性肝炎の病態としてASTやALTが高値のまま持続し、他の原因の慢性肝炎と比較して治療を行わないと進行が早く、肝硬変から肝不全に至ることも稀ではありません。この病気は中年女性に多く50歳から60歳代が発症の中心となっていますが、若い女性や小児での発症も珍しくはありません。また近年では男性の患者や高齢での発症例も以前よりも増えてきています。原因として肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害が除外され、血液検査で 自己抗体 ( 抗核抗体 や抗平滑筋抗体)の陽性や免疫グロブリン(IgG)の増加がみられた場合は、本症が強く疑われます。診断確定のために針で採取した肝臓の組織を顕微鏡で観察する肝生検が必要になることも多いです。自己免疫性肝炎の治療の中心は副腎皮質ステロイド剤で、長期間にわたって病状や体格にあわせた投薬量の調整が必要であり、不適切な薬剤の投与で治療抵抗性となったり、副作用が悪化することもあります。習熟した肝臓専門医が継続的に管理することで、治療の有効性と安全性が向上します。

原発性胆汁性胆管炎

PBC:Primary biliary cholangitis

原発性胆汁性胆管炎は、肝臓の中の胆汁を流す小さな胆管が障害され、肝臓に胆汁がうっ滞する病気です。うっ滞した胆汁は肝臓の細胞を慢性的に破壊し線維化を生ずるため、進行すると最終的には肝硬変から肝不全に至ります。この病気も発症に免疫システムの異常が関与しているといわれていますが、詳しい原因については未だ解明されていません。PBCもAIH同様に中年以降の女性に多く見られる病気で、初期には無症状か身体の痒みなどの軽微な症状が多いですが、進行すると黄疸や腹水、食道胃静脈瘤による吐血などの症状が出現します。肝機能異常の特徴としては、ALPやγ-GTPが高値になり、血中のコレステロールも上昇しやすいのが特徴です。また免疫異常の関与のため、自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(AMA)が特異的かつ高率に陽性化するほか、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなどの他の自己免疫性疾患や膠原病を合併することがあり、肝臓以外の評価も重要となります。治療には、ウルソデオキシコール酸が第一選択として用いられます。ステロイドと異なり副作用も少ないことから、初期の段階から投与されることが多く、90%程度で効果がみられる反面、進行した症例で投与を行っても効果が期待できません。PBCとAIHは両者の病態が互いに合併することも多く(オーバーラップ症候群)、早期の段階から適切に治療をすすめていくうえで、肝生検を含めた肝臓専門医による診断管理が重要となります。

肝硬変

肝硬変とは、肝臓に慢性的な障害が長期にわたって持続することにより、炎症で脱落した肝臓の細胞が線維とよばれる組織で置き換えられ、肝臓がごつごつと硬く変化し、機能が弱った状態です。ウイルス性肝炎やアルコール、自己免疫性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎など、その原因によらず肝臓に起こった障害を治療せず放置すると肝硬変に至ります。
初期症状としては、食欲不振や、疲れやすくなった等があり、重篤化すると、黄疸の症状や腹水が溜まったり、吐血、意識障害に陥ることがあります。血液検査や腹部CT検査・超音波検査等の画像診断で診断することができます。いったん肝硬変に至ると内科的な治療をしてもきれいな正常の肝臓に戻らず、肝臓の移植が唯一の根本的な治療となります。肝臓移植は身体への侵襲が大きい手術のため、年齢の制限やドナー(肝臓の提供者)が必要などのハードルの高い治療となりますので、肝硬変にならないようにできるだけ早い段階から病気の進行を防ぐ必要があります。

肝臓の腫瘍 肝細胞がん

肝臓のがんは、肝臓から発生する「原発性肝がん」と別の臓器のがんが肝臓に転移した「転移性肝がん」に大別されます。原発性肝がんの90%を「肝細胞がん」が占めており、日本では5番目に多い癌です。またがん以外の良性の腫瘍も検診などで肝臓に偶然発見されることもよくあります。肝臓にできる良性腫瘍としては、嚢胞や血管腫などが多いですが、それ以外にも肝細胞腺腫や限局性結節性過形成、腺腫様過形成など「肝細胞がん」との区別が難しい腫瘍もあり、超音波検査やCT・MRI検査での腫瘍の画像所見、さらには背景の肝臓の状態を吟味した上で慎重に診断する必要があります。診療経験が豊富な肝臓専門医の腕の見せ所といえます。

肝細胞がん

原発性肝がん中で最も多いのが肝細胞がんです。肝細胞がんは、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎の患者さんで特に発症しやすいです。これらの病気を指摘されている方は、症状がなくても、定期的に肝臓の画像検査(超音波検査、CT、MRI)と血液の腫瘍マーカー(AFP、PIVKA2)検査が必要になります。肝細胞がんは、進行した状態では根治が難しいため、早期発見が極めて重要となります。小さいうちに見つけて、手術治療、ラジオ波焼灼術など、適切な治療法を選択することで制御できる可能性が高まります。またアルコール性肝障害や糖尿病・肥満を背景にした非アルコール性脂肪肝炎から発生する肝細胞がんも最近では増えてきております。ウイルス性肝炎がなくても、肝機能の異常が続いている方は、肝臓専門医の元で定期的な診察を受けて頂くことをお勧めします。

肝臓内科外来について